大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(ネ)3539号 判決 1995年6月21日

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  前項の部分につき被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

理由

一  当裁判所は、第二記事ないし第四記事のみならず、第一記事も名誉毀損の不法行為を構成せず、したがって被控訴人の本訴請求をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由については、原判決の前記「事案の概要」中の「二 当事者間に争いのない事実(1ないし4、7)及び証拠により容易に認定した事実(5、6、8ないし11)」欄及び「第三 争点に対する判断」欄一項ないし四項の記載を次のとおり訂正して引用する。

1  一三丁裏四行目の「原告は」を「原告が議長に選出されたのは、当時の取手市議会の政治情勢の結果であり、そのため」に改める。

2  一四丁表四行目から同五行目にかけての「利にかなったことである」を「の利益に合致するものである」に改める。

3  一四丁裏二行目の「そもそもが通常ならば」を「取手市議会における選挙当時のような政治的情勢がなかったら」に改める。

4  一八丁表六行目冒頭から同一〇行目末尾までを次のとおり改める。

「ところで、公共の利害に関する事項について自由に批判、論評を行うことは、表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、その対象が公務員の地位における行動である場合には、右批判等により当該公務員の社会的評価が低下することがあっても、その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の不法行為の違法性を欠くものというべきである。(最高裁判所平成元年一二月二一日第一小法廷判決、民集四三巻一二号二二五二頁参照)」

5  一九丁表一行目冒頭から同二行目末尾までを次のとおり改める。

「そこで、以下、本件各記事について、右の前提事実について真実性の証明があるか否か、論評としての域を逸脱したものでないかどうかについて検討する。」

6  一九丁表末行の「原告」を「控訴人」に、同裏一行目の「被告」を「被控訴人」にそれぞれ改める。

7  一九丁裏五行目冒頭から同九行目末尾までを次のとおり改める。

「また、右記事に「あらゆる機会を捉えて(原文では「把えて」とある。)」とある部分も、「機会あるごとに、努めて」の意と解することができ、許されないほどの誇張とは認められない。」

8  二〇丁表七行目末尾の「証言する。」を「証言しており、これらによれば、被控訴人が右内容の発言をした事実を認めることができる。」に改める。

9  二〇丁表八行目冒頭から同二一丁表一行目末尾までを次のとおり改める。

「また、右記事に「脅してみたり」とある部分も、それが文字通りの脅迫というのではなく、強く牽制する程度の意と解することができるから、限度を越えた表現ということはできない。」

10  二二丁裏六行目冒頭の「なるほど、」を次のとおり改める。

「証人海老原平は、右内容の発言をした事実を否定しており、これを聞いたとする控訴人の右の供述を裏付けるまでの証拠は見当たらないが、「世が世ならとても議長にはなれない」との記述自体は、その前後の記述、すなわち、右記述の前に記載された「甲野議長は昭和六十三年一月の市議会改選後、保守系議員の支持をとりつけて誕生した。期別順からすればまずは順当な線だという議会側の空気と、やる気に燃える改選後の議会の運営を任せるには適任だという執行部の思惑が合致した結果だった。このため、」との記述及び前記の記述に続いて記載された「そんな、いわば、いわく付きの甲野体制は、一年間は一部発言封じなどもあったが、まずまずの議会運営だった。」との各記述の一連の流れの中で通読してみれば、要するに、被控訴人が議長に選出されるについては、当時の取手市議会における勢力関係やこれに対する市執行部の議会運営上の思惑に被控訴人の議員経歴、人柄、持ち味等の諸々の要因が重なった結果適任とされるに至ったのであり、そうした情勢下でなければ、被控訴人は議長に選出されなかったであろうとの意見を述べるものに過ぎず、それ以上に、ことさらに被控訴人の出自や経歴を取り上げて、同人の議長不適格性を述べているものではないことは明らかというべきである。そして、」

11  二二丁裏一〇行目の「推測される。」から同二三丁裏一行目末尾までを次のとおり改める。

「推測されるところであるから、右の意見、論評の前提となるべき事実関係の証明はあるというべきである。」

12  二五丁表五行目の「ところで、」から同二六丁表四行目末尾までを次のとおり改める。

「そして、「もう正気の言動ではない。バカ殿気分も休み休みやってもらいたい。」との記述は、被控訴人の前記の言動に対する控訴人の評価、意見を述べるものであるところ、その表現としては相当に辛辣で必ずしも穏当とはいい難いところがあるけれども、その主題としている事項は、取手市議会の議長という要職に関する極めて公共性の強い事項であり、しかも、前述のとおり、被控訴人の議長去就の問題を巡って厳しい対立が生じるなかで、被控訴人の側からも従前の紳士協定に沿った対応を拒否し、辞任を拒む趣旨の強硬な言動が示されるのに対して、これに反対する立場から、被控訴人に反省を求め、その姿勢の変更を促す目的をもって意見、論評を加えたものであるから、右の程度の表現がなされたからといって、それが、主題をはなれて人身攻撃に及ぶものというべきではなく、なお意見、論評としての域を越えるまでのものとは認められない。」

13  二六丁表八行目の「一致している」から同裏六行目末尾までを次のとおり改める。

「一致しており、主要な点において真実であることの証明があるということができ、批判、論評としての域を逸脱したものとも認められない。」

二  以上のとおりであって、第二ないし第四記事のほか、第一記事も名誉侵害の不法行為を構成しないというべきである。

よって、原判決中第一記事による不法行為の成立を認めて控訴人を敗訴とした部分は不当であるから、これを取り消し、右部分について被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 町田 顕 裁判官 村上敬一 裁判官 中村直文)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例